あらゆるものがかつては想像できないほど進歩している。
でも、まったく変わってないものがある。教育だ。
ビクトリア時代の教師が、21世紀の教室に入ってきても、
さほど違和感は抱かないだろう。ほかのジャンルではあり得ないことだ。
このモデルは近い将来、滅びるだろう。
テクノロジーは教育に深い変化をもたらしている。


BETT(British Education Technology Show)は、ロンドンの西オリンピアで毎年開催される教育テクノロジーの見本市。世界最大規模を誇る。
2012年1月11日、BETTの演壇に立ったジャーナリスト出身のイギリス教育相(日本の文部科学大臣)、マイケル・ゴーヴ(Michael Gove)は、学校の古いカリキュラムは変わらなければならない、と訴えた。
(訳・TENTO 英The Gurdianのスピーチ全文掲載による 元の記事
  
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ドミニクさん、親切な紹介ありがとう。このBETTの場に来られてとても嬉しく思っています。
今日はまず、このホールに来られたすべての企業におめでとうを言うことからはじめましょう。

英国の企業は教育技術の分野で世界のリーダーであり、ますます強さを増しています。たとえばBesaは2010年に輸出を12%増加させています。クリック・ソフトウエアはアメリカ、チリ、カタールに進出し、すでに英国の小学校の90%に提供されていますが、最近、今までで最大の取引を成立させました。モスクワの全学校の半分へ「Clicker5」ソフトウェア(完全ロシア語版)を提供することになったのです。

Prometheanは、インタラクティブなホワイトボードや学習用ソフトを開発していますが、昨年の6月にメキシコの教育庁と覚書を交わしました。メキシコ全域における小中学校の教育に協力していくことになっています。

これらは、英国の企業がすばらしい成果をたくさんあげたうちの、ほんの一部に過ぎません。そして、さらにたくさんのものが今日ここにあります。今夜のBETTアワードの、最終候補者リストがそれです。候補者に幸あらんことを。そして(まだ決まっていませんが)優勝者におめでとうを言いたいです。

●テクノロジーは世界を変え、職場を変えた

私たちをとりまく世界は、今まで誰も想像もできなかった方向、不可能だった方向に変わってきました。私たちがポケットに入れて持ち歩いているスマートフォンには、ニール・アームストロングやバズ・アルドリンが月に行くのに使ったものより、さらに進んだテクノロジーが内蔵されています。

現在の環境は、25年前、あるいは100年前とはまったく異なったものになっているのです。

かつては専門の事務員がカードを使って情報を整理しており、いわばデューイの十進分類の世界でした。今や何千もの会社員がデスクトップから世界を散策しています。

かつて車の製造工場には鍛造やハンダ付けや穴あけをする工員が製造ラインをつくっていました。今や、ロボットが全過程を担い、それをひとりの技術者が精密操作するようになっています。

私がジャーナリストとしてのキャリアをスタートしたのは1980年代でしたが、当時はタイプライターとテレックスの時代でした。タバコの煙でムンムンとしたニュースルームで、遠くから聞こえてくる金属活字のカチャカチャいう音に囲まれていました。

今やニュースルームは、そしてジャーナリストは、ほとんど別のものに変わっています。テレックスはファックスになり、ページャー(ポケベル)に、そしてE-mailになりました。デスクトップコンピュータはラップトップに置き換わりました。ポケットには余るくらいの大きい携帯電話だったのが、ブラックベリーのような小さいものに変わり、電子リーダーやiPadを使っています。

新しいガジェットは飛躍的に進歩し、同時にテクノロジーは新しい知的な分野、また商業の分野へ広がってきました。

20年前、医薬品は情報技術ではありませんでした。現在はゲノムが解読され、生命工学と合成生物学の技術が医薬品を変化させています。生物学とITの垣根はぼやけ、「生物情報学」と呼んでもいい新たな領域になっています。

20年前、科学雑誌は「AIの冬」に関する記事でいっぱいでした。戦後に期待されていた人工知能の研究が行き詰ってしまうという不安が大きかった。でも今は、私たちの心の地理について、かつて想像できなかったほどに知ることができます。きめ細かなコンピュータモデルのおかげです。驚くべきことに、脳・コンピュータ・インターフェース(brain-computer-interfaces)は、思考の力によって物理環境をコントロールすることを可能にしました。「技術が進むと魔法のように見える」と言ったのはアーサー・C・クラークですが、じつに的を射ています。

20年前、インターネットが何であるか、どのようなものになるかを知っていたのは、ほんの一握りの専門家だけでした。現在は世界中で何千万の人々、何億もの安価なセンサーが相互接続し、毎日毎分もっとたくさんの人がオンラインになっています。

ほとんどすべての分野の職業がテクノロジーに依存しています。ラジオからテレビへ、コンピュータとインターネットへ。こうした新しい技術の進歩は世界を変え、さらに私たちを変えてきました。

しかし、注目すべき例外がひとつあります。
教育です。
教育はほとんど変わっていないのです。

学校教育の基本モデルはいまだに、ひとりの教師が複数の生徒に教えるというものです。そのモデルは何世紀ものあいだほとんど変わっていません。それこそ、古代アテネのオリーブの木陰で、プラトンが創立した最初の「アカデミア」以来変わっていないのです。

もし、21世紀の教室にビクトリア時代の教師が入ってきたとしても、とくに違和感は感じないでしょう。ホワイトボードはチョークのホコリを駆逐しましたし、長椅子から個人椅子に変わっていますが、今も教師はクラスの前に立って生徒に講義をし、テストをして、生徒たちに質問しています。なにも変わっていないのです。

しかしこのモデルは次の20年は続かないでしょう。もしかしたら10年で滅びるかもしれません。

テクノロジーはすでに、教育に深いレベルでの変化をもたらしつつあります。一方では目に見えるところで、他方は夢にさえ見なかった形で。

よく知られているように、技術の未来を自信満々に予言した人は、たいてい困ったことになっています。

早くは1899年に、アメリカ特許局のチャールズ・H・デュエル局長は、「もはや発明されるべきものはすべて発明されつくした」とまで言いました。

1943年には、IBMの会長が「コンピュータの需要は世界でもたぶん5台しかない」と推測しました。1936年にラジオタイムの編集者は「テレビは我々の生きているうちには実現しないだろう」と言いました。

最も印象深いのは、国立協会の長であったケルビン卿が、1897年から1899年前の間に、困った予言のハットトリックを行ったことです。いわく、「ラジオに未来はない」「X線は明らかに役立たずだ」、そして「飛行機は科学的に不可能だ」。

●技術政策への新しいアプローチ

私は、企業が持つ技術やガジェットが世界を変えようとしている、という観点からその企業と一緒に仕事をしようとは思いません。最先端の技術ほど賞味期限が短いものはないからです。

しかし、私たち英国人は、イギリスの素晴らしいヒーローの一人、アラン・チューリングを忘れてはなりません。チューリングは、現代のコンピュータの全ての礎を築きました。1930年代のコンピュータ理論での彼の先駆的な仕事は、ご存知のように、彼自身やフォン・ノイマン、あるいは他の人達がコンピュータ産業を作る土台となったのです。

別世代のパイオニア、ビル・ゲイツが警告するところによると、現代の子供たちがコンピュータ・プログラミングを学ぶ必要性は私たちが育ったころよりもはるかに差し迫ったものになっているということです。グーグル会長のエリック・シュミットが最近嘆いていたように、英国では、偉大な遺産を無視するような教育システムになってしまっています。まさに今、そのツケを払っている最中です。

私たちの学校のシステムは、子どもたちにこの新しい世界への準備をさせてあげることができません。この10年で何百万人の生徒が学校を出ましたが、彼らはまともな職につくための基礎学力さえ身につけていないのです。そして、現在のカリキュラムでは、英国の学生は、技術変化の最前線で働くのに必要な準備をすることができません。

昨年、リビングストン&ホープの両氏(イギリスの企業家)が素晴らしい報告書を作ってくれました。彼らに感謝を申し上げたい。その報告書では、英国のビデオゲーム業界の凋落は、必要な能力をもつ卒業生が不足していることが原因の一つだとされています。この報告書は、文化省でコンピュータサイエンスを熱心に擁護するエド・ベイジーによって依頼されたものです。彼は、英国の下落傾向は、ハイテク産業で必要とされる、厳密なコンピュータサイエンスとプログラム・スキルがICTカリキュラムの中から無視されているからだと言っています。

何をどうやって教育するか。そこにテクノロジーが大きな変化をもたらしつつあることは明白です。しかし、私たちはそのほとんどにまだ対応していない。これもまた明白です。

よく知られているように、政府は技術的変化を予測したり、うまく利用することが苦手です。過去には、契約書のインクも乾かないうちに時代遅れになってしまうようなハードウェアに多額の資金をつぎ込むようなことも多かった。また、新しいカリキュラムの選定作業、スキルや技術のきめ細かな絞り込みに大量の時間とお金をかけてしまい、そうこうしているうちにそれらが瞬く間に他のものに取って代わられてしまうということもあったのです。

ここで、一歩離れて見る必要があると思います。

テクノロジーは学習のプロセスを理解するのを助けてくれます。脳スキャンと科学的研究によって、我々がどうやって言語の構造を理解しているのかがわかってきました。またどうやって我々が記憶しそれを忘却するのか、試験をうまく設計し実施するとどれだけ良い効果を生むか、またワーキングメモリーの重要性もわかってきました。

科学が進歩するにつれ、我々の脳への理解も深まっています。そして同じように教育のプロセスについての理解も深まっているのです。

(2)につづく

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